私たちは何度も世界を救ってきた。勇者になって、ヒーローになって、兵士になって、狩人になって。これは、太陽の月の力を司る「至点の子」である2人の戦士の物語。…ではなく、特別な能力も屈強な力もない1人の「お料理戦士」が、その優しさと明るさで世界を救う物語だと、私は思う。
物語の舞台は、強大な魔物「棲まう者」を生み出す錬金術師である「フレッシュマンサー」によって被害を受けてきた世界。前述した至点の子であるヴァレアとゼイルは、棲まう者に対抗しうる唯一の力だ。そんな彼らと幼少期から仲の良い少年がガール。彼は村に住むごく普通の少年だ。偉大な役目を持つ至点の子とは住む世界が違うと分かっていながらも、「一緒に旅をしよう!」「僕が2人をサポートするんだ!」と3人は約束を交わしていた。実際に旅の中で、至点の戦士には確かに強力で悪を穿つ力がありながらも、それだけでは救えないものがいくつもあったように思う。そうした救いの手からこぼれ落ちそうになる悲しい心や怒りの心、バラバラになった心をガールは持ち前の性格と時には暖かい料理で救うことができる存在だ。彼の立ち振る舞いからは学ぶことがとても多い。3人以外にも個性豊かな仲間達や敵が多く、それぞれの持つ背景が少しずつ絡まり、物語は予想外の展開へと転がっていく。
グラフィックはとても丁寧に作り込まれたピクセルアートで、壮大な自然や仄暗い洞窟も、温かみのある料理まで美麗かつ細やかに表現されている。特に私としては、幾つも重なり合う大きな滝と長い時の流れを感じされる巨大な時計塔がとても印象的で、思わずコントローラーから手を離してしばらく背景マップを見回していた。
音楽にもかなり力が入っており、バリエーション豊かなBGMが旅を盛り上げてくれている。その数なんと200曲以上。そのため使い回すようなことはほとんどなく、行く先々で新しい音楽が流れてきて毎回心が高揚した。ジュークボックスのように、酒場で仲間のバンドがゲーム中の音楽をケルトっぽくアレンジしてくれるのは控えめに言って最高。
戦闘は完全ターン制であり、タイミングよくボタンを押すとダメージカットや追加攻撃が入るという特性を持っている。入力が成功したときの音がなんとも小気味良く気持ち良い。タイミングは中々シビアだが、ゲームを続けるうちに成功率が上がってくると自分の成長を感じられるのだ。また、敵の攻撃を阻害できるロックシステムや、通常攻撃でマナ(MP)が少しずつ回復するシステムなどにより、戦略的なバトルを作り上げている。レベルデザインは適切に設計されており、事務的なレベル上げ作業は必要ないし、高度な装備のカスタムも求められない。それだけ「ストーリーに集中・没頭してほしい」という意図を感じた。
私たちは何度も世界を救ってきたし、きっとこれからも何度だって世界を救う。Sea of Starsの世界もその一つだ。しかし「ただの一つ」として過ぎ去らない、記憶に残るような驚きや友情、暖かさがこの世界にはある。是非、この感情を、あなたにも。