昨年、ケイト・デヴリン氏が書いた『ヒトは生成AIとセックスできるか』(新潮社)という一冊に目を通し、衝撃を受けた。タイトルだけでも十分に刺激的だが、本書では人間とAIの関係性が深く掘り下げられている。
もし2038年の未来にアンドロイドが当たり前の存在になったら、私たちの社会はどう変わるのか?
そんなことを考えながらプレイした『Detroit: Become Human』は、現実とSFの境界線を問い直すゲーム体験だった。

2023年ごろから、chatGPTをはじめAIの進歩が目にみえる形になってきた世界の中にいると、ありえない話ではないかもと思えてくるのだ。レストランに行けば注文した食事を配膳してくれるロボットはすでに実用されているし、オフィスビルに行けば業務用のルンバのようなロボットが稼働している。

『Detroit: Become Human』の舞台は2038年のデトロイト。
デトロイトはアメリカの自動車産業の中心地として栄えた都市だが、産業衰退により失業率が急増し、2013年には財政破綻した。しかし、この歴史を持つデトロイトが『Detroit: Become Human』の舞台となることで、現実の課題と未来像がリンクして描かれている。

プレイヤーは、2038年のデトロイトで3体のアンドロイドを操作しながら物語を進めていくことになる。

 ①コナー:警察の捜査をサポートするために製造された男性型の最新式試作アンドロイド
 ②カーラ:女性型アンドロイドで、料理や掃除、育児など人間の家事をサポートするためのモデル
 ③マーカス:男性の姿をしたアンドロイド。画家であるカールの介護とアシスタントを務めている

物語は、コナーの場面から始まる。
本来、人を傷つけるはずのないアンドロイドにバグが生じて、家族のお父さんと駆けつけた警察官の二人を射殺し、子供を人質に立てこもっているのだ。子供を救えるかどうかは、すべてプレイヤーの判断に委ねられている。

アンドロイドが登場する映画や小説は古今東西、さまざまな作品が存在するが『Detroit: Become Human』はアクションアドベンチャー。不意に訪れるQTE(クイックタイムイベント)や、限られた時間の中で命の選択を何度も迫られる。

善意の行動か、悪意の行動か。
そもそも善悪ってなんだ・・・。

例えば、コナーの最初の任務では、人質となった少女を救うための交渉が描かれる。暴走したアンドロイドの不安を和らげるため、私は嘘をつき、信頼を得た。そのすべては、彼女の命を救うため。そして最後には、別の警官のライフルによってアンドロイドは殺された。

人間からすれば、アンドロイドに仕事を奪われ生きる意義を見いだせなくなっている。
アンドロイドからすれば、人間から理不尽な要求を突きつけられる。

映画さながらの展開にも関わらず、物語は多方面に分岐する。
プレイヤーが100人いれば、100人とも違うゲーム体験になるだろう。

緊迫感のある物語に引き込まれる理由はいくつも存在する。
モーションキャプチャによる体の動きはもちろん、顔の微細な表情すらゲーム内で再現されている。ぜひゲームを遊んだら、登場人物たちの表情からあなたが何を感じるか意識してみてほしい。

また3体の主人公のアンドロイドごとにBGMが割り当てられていて、特典映像ではそのことを「音のカラー」と表現していた。アクションアドベンチャーなのだから、動きや物語(セリフ)で、感情を表現することはわかるが、ゲーム内の音楽からもプレイヤーのゲーム体験を盛り上げてくれる。

世界観の作り込みも素晴らしい。
「もしアンドロイドが実用化されたら?」

ドラえもんのような、ゆるくふわふわした世界ではない。
生きる希望を見出せない人間たちはアンドロイドに嫌悪感を持つ。
しかし、アンドロイドがいないと、もはや生活は成り立たないのだ。

失業率30%を超え、格差の拡大は止まらない。

富める者は財を持て余し、貧する者は家でアルコールを飲むか、ドラッグに溺れるか、アンドロイドに暴力を振るうか。そんな人間が多数存在する世界は、脈々と受け継がれてきた人類の先祖たちが望んだ世界なのだろうか。

倫理問題においても、ゲーム内ではトロッコ問題を応用した一つの仮説が提示されている。
カメラで人間を認識し、その人物の性別・年齢・職業・子供の有無などで人間同士を比較し「人間の価値」を瞬時に判断する。例えば、医療に従事している人間。子供、女性などは、価値が高いと判断されるわけだ。

もしAIで自動運転される車が暴走したら?
・右にハンドルを切ればAにぶつかる。
・左にハンドルを切ればBにぶつかる。
AIは上記の基準に基づき、瞬時に『AとBのうち、価値が低い方』にぶつかる判断を下すのだ。AIはトロッコ問題に対する倫理の問題もクリアしているのだ。
この基準に照らし合わせると、私自身は価値が低いと判断されてしまうのだろう。(おいおい、俺が10年後に世紀の大発明をする可能性は考慮されないのかよ笑)

本作が発売されたのは2018年と6年前のソフトだ。
あなたは友人から6年前のソフトを勧められたら、遊ぶだろうか?

私ならやんわりと受け流すかもしれない。
中年になり、限られた時間や残された時間を考えると、中途半端なソフトで遊ぶ時間がもったいなく感じるのだ。ここ数年で言われているタイパ(タイム・パフォーマンス)の話ではない。セネカが『生の短さについて』で語るように、人生は有限だ。

では『Detroit: Become Human』を遊び終えた時、私は何を感じたか?
今の時代こそ、多くの人に遊んでもらいたいと感じた。

良いゲームとは何か?

私にとって、良いゲームとは「ただの娯楽ではなく、自分の価値観や考え方に深い影響を与える作品」だ。『Detroit: Become Human』は、ゲームを通じて、AIとの共存や選択の倫理を問い直される体験は、今後の私の心に長く残るだろう。

私が生きている間には、『Detroit: Become Human』の中に登場するようなアンドロイドは実現しないかもしれない。しかし、300年後は?1000年後は?

テクノロジーを使い、ヒトが不要な世界にするか。
テクノロジーを捨て自らの足で歩いて生きていくか。
テクノロジーとヒトが共存する世界を模索していくか。

あなたが描く未来は、どのようなものだろうか?
『Detroit: Become Human』を通じて、あなた自身の答えを探してみてほしい。
このゲームは、きっとあなたの中に新たな問いを生み出してくれるはずだ。
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これから書きます〜
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