ゲームの重要な要素そして目的の一つとして、現実の遊びを落とし込む、というものがある。
歴史上最古のコンピュータゲームと呼ばれるものは、諸説あるが、1962年のスペースウォーといわれている。が、その前の1958年には「Tennis for Two」と今では呼ばれているテニスゲームが開発されている。しかも「PONG」のようなバーでボールを跳ね返すのではなく、この時点ですでに放物線を描いて落下するゲーム性を備えていた。

その後、コンピュータゲームはチェスやテニスの再現だけでなく、この世のあらゆる事象をも再現可能になった。SFの世界のような、没入型のゲーム世界に飛び込むことができる日もそう遠くはないだろう。

しかし、ゲームはやはりゲームである。そして、ルールが単純で、尚且つ奥が深ければ深いほど人はゲームにのめり込む。プリミティブな体験に勝てる要素は全宇宙を探してもそうそうあるものではないのだ。

そして、Balatroである。ポーカーをコンピュータ上に再現し、そこに一味加えただけのように見えるこの至ってシンプルなゲームが、しかし恐ろしいほどの中毒性を備えていた。

ルールは簡単。ポーカーの役を揃えて規定のチップ数を稼ぐことができれば敵(当ゲームではブラインドと呼ぶ)を倒し、次へと進むことができる。とはいえ、敵の姿が見えるわけではなく、なんなら敵とポーカーで戦うわけでもない。プレイヤーは役を揃えるだけで良い。そして、画面上部に並ぶジョーカーがこのゲームに最大の華を添える。それが、ジョーカーの持つ特殊能力の発動と、他のジョーカーや役のレベル、そして追加効果を生む別の要素、タロットカードと惑星カード、バウチャーとのシナジー効果である。

ジョーカーにはそれぞれ固有の能力があり、特定の役を揃えたり、揃え方を工夫したりする事でその力を発揮する。そして、ジョーカーによっては役のポイントを何倍にも、いや、うまくいけば何百倍にもして相手にぶつけることができる。この時のジョーカーのアニメーション、サウンド、視覚効果が絶妙に素晴らしく、小気味いい音とともに膨れ上がっていくポイントを見ているだけで、もう脳汁がドバドバ状態になること請け合いである。

そもそものポーカーのルールを知らない人向けに、いつでも見ることの出来る役の表やガイドが備わっていて、我が家の9歳の娘でも簡単にルールを理解することが出来た。ゲームとはかくあるべし。

ゲーム業界は、莫大な予算と膨大な人員を投じて作られるAAAゲームが支えていると信じる人々がいる。だが、わたしはこういう、アイデア一つで無限の面白さを作り上げることが出来る事こそがゲームの真髄だと信じている。Balatroも決して突然変異種ではない。これまでゲームが作り上げて来たジャンルや文化がないまぜになって、ここ十年単位でのインディーゲームの台頭があって、さらにデッキ構築ローグライトの先駆けであったSlay the Spireのような先達があったからこそ生まれたものなのだ。
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