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Factorio

Game of the Year 2024
DaemonDaisy さん
MechWarrior 5: Mercenaries
🤖🤖🤖長い長いプロローグ:邂逅と別離🤖🤖🤖 「これはメックウォーリアというんだ」 中学校の視聴覚室のパソコンに私物のゲームを勝手にインストールした挙げ句、掃除の時間に生徒に見せびらかすという悪事の数え役満のような不良英語教師”トム”の言葉が、私にとっての天啓となった。 箒を放りだして、クラスメイトのヒロキくんと私は画面にかぶりついた。 数日後、裕福であったヒロキくんは件のゲーム「メックウォーリア2:傭兵部隊」を購入し、プレイ体験をマシンガンのように私に浴びせた。裕福ではなかった私はハチの巣になりながら這々の体で帰宅し、枕を殴り噛みしめ涙で濡らした。私に出来たのは、ヒロキくんのお気に入り機体「TimberWolf」と「Summoner」を英和辞書で調べながら妄想にふけることだけだった。 メックウォーリア3との出会いは高校生の頃だった。今や廃刊となった某PCゲーム雑誌に収録されていた体験版は、今やnVidiaに駆逐された某社製グラボを搭載した父のPCでは動作しなかった。私に出来たのは、同誌の記事で強敵として紹介されていた機体「Thor」を辞書で引きながらチベットスナギツネの顔真似をすることだけだった。 メックウォーリア4との出会いは大学生の頃だった。インターネットが当然のインフラと見なされつつあった時代だった。製品版を買う余裕がなかった私は、体験版を大いにやり込んだ。 数年後、無料版なるものが公開された。私は歓喜すると同時に一抹の不安を感じていた。無料配布など異常事態である。ライセンス関係で何かのっぴきならない事態が発生したのではないか。当時は今のような優れた翻訳AIは存在せず、当時も今のように私の英語力はゴミカスだった。配布サイトの記事を理解できなかった私には事情を知る術はなかった。 そして長い沈黙が訪れた。10年以上にわたり、メックウォーリアの新作の名を聞くことはなかった。私に出来たことは、ファンサイトを漁って私の最推し「MadCat」がヒロキくんの最推し「TimberWolf」の別名であることと、強敵「Thor」がヒロキくんの推し「Summoner」の別名であることを突き止めることだけだった。過去と現在が繋がり――そして途絶えた。 🤖🤖🤖再会🤖🤖🤖 長い月日の後にPCゲーマーとなっていた私に、再び唐突に天啓が下った。半ば無意識に、私はSteamストアに件の聖句「MechWarrior」を打ち込んだ。 MechWarrior5。 “5”。存在するはずのないナンバリングが私の目に突き刺さった。何度も目をこすり頬をつねった後、私は自分が奇跡を目にしていることを理解した。前作メックウォーリア4の発売から実に20年目のことであった。 自分の中にいる中学生の自分が目を輝かせ、高校生の自分が拳を突き上げ、新米社会人の自分が涙を拭い、現在の自分はレモンサワー混じりのよだれを垂らした。 気がつくと私はゲームだけでなく、数年間購入を自粛し続けていたグラボまでもポチっていた。 🤖🤖🤖アクションというよりシミュレータ🤖🤖🤖 ロボットゲームというジャンルについて、このような考察がある: <引用> (略)ロボットゲームは単に「キャラクターがロボットというだけの爽快感重視系アクションゲーム」か、あるいはリアルさを追求しすぎ「操作は複雑でアクション性に乏しい、地味でマニアックなシミュレーター」という印象の作品が多く(略) </引用> (wikipedia 日本語版 “電脳戦機バーチャロン” より) 本作は明確に後者寄りだ。プレイヤーが搭乗するロボット(「メック」と呼ばれる)の動きは鈍重で、アクションゲームと呼ぶにはペースが遅く、一方で操作は煩雑で「走る・曲がる・止まる」すらボタン一つというわけにはいかない。工事現場のユンボで殴り合いをしようとしたらこんな具合だろう。「折角なんだから思い切りガチャガチャしたい」「戦争映画ならハイスピードなドッグファイトより頭脳戦みたいな潜水艦戦が好き」というプレイヤーにお勧めだ。 一方で、自分の身体すらうまく扱えない私のような不器っちょのために、FPS式の操作に変更するオプションや、強力なエイムアシストを有効化するオプションもある。さすが20年弱の時を経て令和の世に復活したタイトル、下手くs、もとい多様性への配慮もある。 🤖🤖🤖アメリカンなデザインとロマンあふれるカスタム🤖🤖🤖 本作で私にとって最重要なのは機体デザインだ。ジャパニメーション的な「ツヤツヤテカテカ8頭身」とは対照的な「なんか大きくてブサいやつ」である。新幹線より蒸気機関車、スマートウォッチより機械式時計、スポーツカーよりバケットホイールエクスカベーター、クラタスよりメガボッツ(ロボ好きの嗜みですよね?)、という人には刺さると思う。逆関節とかダチョウ脚とか呼ばれる蠱惑的な脚部構造を持つ機体も多いのでフェチにはお勧めだ。 重量、スペース、排熱処理等の制限の中でカスタマイズも可能だ。特徴的なのは装甲の厚さやヒートシンクの量まで弄れることだ。私のお気に入りの武装はPPC(「荷電粒子砲」的なモノ)。超長射程と高ダメージを併せ持ちつつ弾数制限がない夢の武器だが、代償として非常識な熱を発生する。これを装備できる機体は限られており、また2門以上を同時発射したときに発生する爆熱を適切に処理しきれる機体はほとんどない。故に私はよく戦場の真ん中で熱暴走し、自らの機体から開戦の狼煙を上げている。 良いのだ。ロマンは全てに優先する。 🤖🤖🤖TRPG由来の「ごっこ遊び」向きタイトル🤖🤖🤖 一般受けしやすいゲームと対象的に面倒くさい要素が多い本シリーズだが、それはもともとBattleTechというTRPGに起源を持っていることに起因すると思われる。TRPGについては私も詳しくないので多くは語れないが、秀逸だと思った比喩は「目標とルールのあるごっこ遊び」というものだ。 ゲームのテンポがゆったりしていたり、部位破壊とか熱暴走とか弾薬切れといった細かなイベントが頻発し続けるのは、複数人による対話を前提とした「ごっこ遊び」と相性の良い仕様だと思う。 「敵影、捕捉しました!」「何ッ!実弾じゃなくエネルギー武装だと!?」「くッ、右腕をやられた!」など、ロールプレイをしようと思えば喋るネタが尽きないしその時間的猶予もある。配信者さんのコラボ企画に良いのではなかろうか。 私はお一人様専門なので、あらゆる難易度設定を甘々にした上で、愛機たちが玉砕したり爆散したり荒野の砂利に鼻先を突っ込んだりするのを見て妄想を膨らましている。大人のお人形遊び、いわゆる「ブンドド」の電子版として優秀だ。格好良い撃破シーンをもっと見られたら良いのだが。 🤖🤖🤖忠実さ故の制約、そして新たな出会い🤖🤖🤖 BattleTechの既存の世界観に忠実に基づいているため、ストーリーでは世界の歴史を変えてしまうような大イベントは発生しない。キャンペーンモードにおいてプレーヤーが演じるのは、殺された父の仇討ちを誓う、BattleTech世界の歴史の教科書には登場しないような名もなき戦士である。 登場するメックもBattleTechの歴史と矛盾しないものに限られる。私の最推しメックであるMadCatは、本作の舞台となる時代にはまだ存在しておらず、故にいとしいしととの20年越しの再会は叶わなかった。しかし、ヤケ酒しながら燻る私を本作は放っておかなかった。 父の遺した謎の機体があると告げられ、とある惑星の隠された格納庫の前に立つ。扉が開いてゆく。 あーはいはい。どうせこれもMadCatじゃないんだ。この時代にMadCatはいない。どうせクソ重装甲の火力おばk ファッッッ!?!?!? 美しい左右対称形。被弾面積を抑える低い機影。十分な可動域を確保しつつもコンパクトな腕部。そして艶めかしく輝く逆関節の両脚。 おい破廉恥だ隠せモザイクを入れろCEROもZにしとけああもうレビューなんか書いてる場合じゃねぇぞ 🤖🤖🤖エピローグ:継承🤖🤖🤖 そういうわけで、中坊時代に出逢って以降、人生で最も長期間続編を待ち望んだタイトルである本作が、私にとってのGOTYである。いや待ち望んだというのは嘘だ。あまりのブランクの長さに、続編はもう出ないのではないかと疑った。セリヌンティウス、私を殴れ。ちから一杯に頬を殴れ。 私とヒロキくんにメックウォーリアを教えてくれた英語教師”トム”は、ただの邪智暴虐の不良教師ではなかった。ゲーム内の父が私に妖艶なるメック「NightStar」を遺したように、トムは私達にメックウォーリアを遺してくれたのだ。 今、私は視聴覚室で若人にメックウォーリアを布教するような立場にはない。しかし令和の世に生きる私には出来ることがある――ここYourGOTYで。 ここまで駄文を読んで頂いた奇特なゲーマー諸賢へ。 「これはメックウォーリアというんだ」
Game of the Year 2024
ハヤニー🐸色々公式プロゲーム実況者✨VIVEアンバサダーとかTGS&Bitsummit公式配信とか さん
Factorio
ゲーム実況を始めてから毎年GOTYベスト3発表企画をやっていまして、Factorioは2022年、2023年と連続でランク入りをしているハヤニーのGOTY常連組のタイトルです。 そんなFactorioに今年大型DLCが追加されました。今までも毎年MOD導入でいろんな遊び方ができたFactorioに、公式で本編の続きができるようになったのです。 元々は惑星に不時着した主人公が惑星の原住生物からの襲撃に備えながら、木を伐採し、鉱石を採掘し、様々な生産施設をつくり、巨大な自動化工場を構築し、自らが脱出するためのロケットを打ち上げるという物語でした。 ここに導入された続きがえげつない! 最初に不時着した惑星以外に複数の惑星が追加。 それぞれ攻略方法が異なり、またその惑星にいくための宇宙船づくりがまた複雑に! 広い惑星の土地ではなく狭い宇宙船に自動化を組み込む流れ、それはまさにプログラミング! いかに効率よく自動化工場をつくれるか、という部分がそれぞれの惑星と宇宙船で別ゲームのように楽しむことができるんですね。 今まで沼ってたものが、ただのプロローグだった・・・。 何倍にも膨れ上がったその世界で溶ける時間は無限大✕無限大! しかも最初からやり直す度に、前回の学びを活かすことができる楽しさもありまくりです。 そんな体験ができる3年連続GOTY入りの「Factorio」 気になる方は絶対やったほうがいい!何かに夢中になれる体験を欲する方も是非!
Game of the Year 2024
yupika さん
Factorio
Factorioとは…って説明いらないよね笑  このゲームで素晴らしいのは、きちんとデザインされた「起伏のあるゲーム体験」を意識しているところです。  工場ゲームは概ねクリッカーゲームとの要素の相似が多く、クリッカーゲームというのは一生遊べる無限プチプチみたいな方向に割り振ることが多いんだけど、それとは全然違うクラシックなゲーム体験を意識している。  ゲームって音楽みたいなもんだと思うんだけど、クリッカーは環境音楽とかテクノって感じで、クラシックなゲームというのはオーケストラってことね。  後発の工場ゲームにはこの点がゆるいのが多くて、概ねやってりゃ終わるにすることで買った人をそこそこ楽しませるものを作ろうとしている。  Factorioはそのままの設定(つまり敵あり)だと詰むことも生まれる危険なゲームなんだけど、そういう部分は「要らない・面白くない」として後発には取り込まれていない要素になっている…が、そうではないという話です。  詰んで、もう面倒くさいなと思いながらゼロからやりなおす、それも大事な体験の一部で、そのときプレイヤーは転生モノの主人公のような全能感に浸れるわけです。とはいえその全能感は自分が確実にモノにした本当の知識によるものでもあるので、スキルの向上が実感になるのがうれしい。  では、まずバニラのFactorioについて。  このゲームは4Xの要素を持ちかけてやめた工場ゲームというのが一番適切な言い方になるかもしれない。  すごくいいところはやはりチェコで作られた手製の表現だろう。はっきりいって、この良さをプレイヤーとしてはわかってるのに作るときに理解していないから後発はただのゲームに成り下がっていると考える。どうでもよさそうにみえて、やっぱりインサータの動き・モーション、そして、本当にそこにあるオブジェクトを掴んで離している、そういう部分が最高にいい。  このゲームは多くの工場ゲームがデータに引き寄せられる中、実存かデータかでいうと実存なんだよな。それは当然4Xゲーム指向であることとも関わっていて、やはりゲームデザインというのはプレイヤーをおもてなししたりどう思わせたりするかだけではなくて、自発的な価値観の発信のためにあると考えるとそれは本質はアートなのではないかと思う。  全体として完成させるにあたって粗さを無理やり乗り越えたゲームだ。汚染による原住民への刺激と対策はソロゲームじゃやってられないくらい忙しいし、使わなくてもいいウランと原子力、せっかく速さアップ等の効果あるけどそれより体にバネ仕込んだほうが全然早い装飾以上にならないコンクリート床…クリアだけなら知らなくていい要素は多い。  それでもこのゲームが完璧だなと思うのは、鉄と銅に始まって、鉄と銅に終わる。その中に中間素材を拡張させるために既存を拡張するフェーズや、まったく新しいラインを組ませるフェーズ、アップグレードによってもっと古いラインを再構築するフェーズ、そして規模の拡大によって遠くへ遠征するフェーズ…やるごとに発見や違う面白さを感じるようになっていて、共通するのは進めば進むほど手が足りなくなって、手が足りないこと自体が楽しい。プレイヤーはいつしか自分が制御できる限界を超えるものを手にしている。それを扱う快感。  ただ、このバニラのFactorioは多分作者の思ってるくらいの3分の1くらいのゲームになってしまっているのだろう。本来、ランダムジェネレーションされるマップにワクワクさせられるものを感じるが結局、ほとんど鉄・銅・原油の産地だけでそこを繋げば別にどう生成したといっても味は同じ、単にそこまで電線と鉄道を引くだけで、拡大の期待はすぐになくなる。  そこでこのSPACE AGE DLCだ。  宇宙船を飛ばしたその後をテーマにしたDLCはFactorioの完全版だ。  元々、Space Explotation(以下SE)というMODがあり、同じく宇宙船を飛ばした後を拡張するMODだが、このスタッフをそのまま丸抱えして作ったとのことだ。  SEは純然たるFactorioの拡張ではあったが、新しい体験といえる部分は少なかった。新規のレシピや発見は縦方向への拡張にすぎず、宇宙軌道や宇宙船の体験は新しいが最終的にはバニラの延長をすごい規模でやらせるだけだったと思う。それはそれでFactoriers CUSTOM(なにそれ)としてはよいものではあったが…。  それが本作は、横方向への規模の拡大がとにかくすごい。  宇宙船の設計は明確に楽しい。  Warptorio2という何度もゼロから作るMODがあったが、この宇宙船のシステムはそれに近い。ゼロベースかつ、入力は隕石だけ。これで何を作るか?何をさせるか?という軽いパズルになっている。  こういうパズルは得てして”望まれないミニゲーム”となりがちだが、本作はそうはならない。研究によってどんどんアップデートされるルールにカーゴ搭載量や推進力、また「やればわかる」要素満載でまったくもってゲーム本編の一部として溶け込んでいる。  広がる星系の他惑星はどれもルールの違いを強調している。それらは初期Factorioで作った定型の進行(石炭で発電して、炉で鉄と銅を作ることから始める…)を完全に壊しにかかっていて、本当に素晴らしい。まったく新しい体験がそれぞれにできる。さらにゲームデザインとしてもよいのは、他星系は”進行”を解き明かしさえすればFactorio初期の惑星(ナウヴィス)では考えられない莫大な生産力を手にすることになる。  ユニークな惑星がたくさんあって楽しいね…そう、ここで終わっても十分面白かったはずだが、それだとただのDLCである…(?)。これはただのDLCではない!Factorio2だ3だと思わせるほどの要素がこれらを繋ぐネットワークの構築にある。  ユニークな惑星にはそれぞれ特産品があり、特産品はその惑星でしか作れない。この特産品はとても便利だったり、研究に必須だったりするので他の惑星に持ち込む必要がある…。そう、ここで宇宙船だ。  もともとのFactorioでは資源を繋ぐだけのネットワークと化してしまった駅などの物流要素がここに来て、本来の形で楽しめるのだ。  これが、一から設計した要素などではなくゲームデザインとしてはルールを少し足しただけというのが美しすぎる。  各惑星1つ1つは、ミニゲーム以上本編未満である。しかし、それらを宇宙船で結び、惑星同士で入出力をさせることにより、プレイヤーは世界の物流の有機的な関係を築くことになる。この瞬間、ナウヴィスだけで終わってた頃のFactorioでは味わったことがない、本当に宇宙規模にも感じる圧倒的なゲームの大きさ(物理的という意味ではない)を体験することになるのだ。  ゲーム体験としてこれより大きなものを扱っているというのは味わったことがないし、ゲームデザインとしてもそういった感動が何度か続いてそのまま終わりまで走り抜けるようになっているのが美しいと思う。  ただし、これは欠点とは言わないが、宇宙船の運行なども含めて相当シビアだ。全面を一人で監督するには規模が大きすぎる。失敗したら本当におじゃんになるようなタイミングもいくつかある。Factorioをある程度知り尽くしたことが前提であるのは間違いない。  なんとなくDLCではなくて、Factorioの酸いも甘いも嚙み分けた末の世界だということは承知で挑んでほしい。挑む価値はあるが、挑むだけのハードルもある。  それでもこのゲームは、今世紀で最大で最高のゲームの一つであることには間違いない。
Game of the Year 2023
DaemonDaisy さん
Factorio
■■■ プロローグ:世界で最も売れたゲームで、己の無力に泣く ■■■ 「どうしろってんだ…」 泣く子も黙る名作「Minecraft」の画面を前にして、私は絶望していた。こんなはずではなかった。 畑を耕し、家畜を増やし、最高品質の道具を揃え、倉庫に資源を溜め込んだ。 「さてこれで何でも作り放題だ」 眼の前に広がる無限の可能性に心躍った。 しかし今、私の眼の前には、素敵なお城でも神秘的な教会でも心躍る秘密基地でもなく、素朴な「豆腐」—サンドボックスゲーム愛好家はつまらない箱型の建築物をそう呼ぶ—があった。 白木の豆腐、石の豆腐、土の豆腐。何度仕切り直しても、私に生み出せるのは色違いの豆腐の域を出なかった。 ひどく苦労した挙げ句にようやく豆腐を抜け出し「イチゴを奪われたあとのショートケーキ」を建設したところで私は悟った。サンドボックスゲームには絵心が必要なのだ。 私は己の無力に泣いた。 ■■■ Factorioとの出会い ■■■ ため息をつきながらsteamキュレーションをぐるぐる回していた私の眼に、地味なトレイラーが飛び込んできた。 「えらく貧相だなあ」 3Dモリモリが当たり前の現代に、2Dドット絵である。そして可愛くもないし派手でも爽快でもない。「あなたへのおすすめ」として華やかさのかけらもないゲームを提示してくるSteamのアルゴリズムに苛立ちを覚えながらも、何かが私の心を揺さぶるのを感じた。 せわしなく動くロボットアーム、這いずり回るベルトコンベア、駆け抜ける列車。 少年時代に大型商業施設のロビーでルーブ・ゴールドバーグ装置―いわゆるピタゴラ装置―に心を奪われていたときと同質の興奮が、私の心に沸き起こっていた。 気がつくと私は体験版をダウンロードし、体験版用シナリオを3周し—それもできるだけ長く遊べるようにクリア条件を満たさないように工夫しながら—4周目に突入しようとしていた。 製品版を買えば良いことに気付くのが遅れたのは、体験版にドップリのめり込んでいたからだろう。 こうして私はFactorioと出会った。 ■■■ 絵心は二の次で良いサンドボックス ■■■ Factorioはどんなゲームか。一言で言えば最近フォロワーが続出している「工場建設系」「自動化系」の始祖にして至高である。 詳細は私の寝言よりSteamレビューでも見てもらったほうが手っ取り早い。(なおSteamレビューを見る際は、様子のおかしいレビュアー各位の「総プレイ時間」も必見である。私もプレイ時間を勉強時間に当てていれば行政書士試験を2回合格できるくらいの時間をつぎ込んだ。後悔はない。) サンドボックスゲームの範疇だけれど、MinecraftやTerrariaと最も異なる点はビジュアルより機能を作り込むことに主眼が置かれる点だ。 製品を効率よく生産することが重視され、ビジュアルの良し悪しはさほど問題にならない(もちろん見た目にこだわりたければそれも良い)。何か作りたい気持ちはあるけれど絵心はない自分にはぴったりだった。 Minecraftで豆腐職人をやることに疲れた方に強くお勧めしたい。 どんな人に向いたゲームか、という話題についてSNS等でしばしば大喜利が繰り広げられる。 書店の本棚から1冊だけ飛び出ているコミックを押し込まずにはいられない人、すべてがMSゴシックで作られたアマチュア製のチラシを見て血圧が上がる人、古いウィンドウズのデフラグ画面を眺めているのが好きな人…様々なネタが飛び出すが、私が最も笑ったのはこれだ。 「ラーメンのスープに浮いた油をつなげて遊ぶのが好きな人」 誰ですか私をストーキングしている不届き者は! ■■■ 人生初の完全徹夜 ■■■ 華の金曜日の20時。 「思う存分夜更かしして工場を作るぞ」 そう思ってPCに向かった私の耳に、ゲーム内では聞こえるはずのない音が響いてきた。 チュンチュン 実績を解除しました!「一睡もせずに完全徹夜」 何を隠そう睡魔は私の天敵である。定期試験前であっても一夜漬けはしたことがない(できたことがない)し、仲間とモンハンパーティをした日にも真っ先に寝落ちしてクック先生に挽肉にされたし、サークルのカラオケオールイベントでは早々に寝部屋の主となった。 そんな私が—そこそこいいトシになり徹夜がちょっと(と言うかかなり)体に堪えるようになってしまった私が—生涯初の完全徹夜を無意識に成し遂げてしまった。 未だにこれを超える衝撃を他のゲームから受けたことはない。 なお割としっかり体にダメージが来たので、徹夜Factorioは二度とやるまいと誓いを立てた。今のところ4回ほど誓いを立て直すのみで済んでいる。 ■■■ 妥協がどうして生まれるかを知り、少し世界に優しくなれる ■■■ 基本的に好き放題に工場をデザインできるゲームであるが、ゲームである以上は当然、何らかの葛藤に突き当たる場面がある。 資源不足、土地不足、設計における労力不足に時間不足(と睡眠不足)。いろんな要素が「理想の工場」づくりの脚を引っ張る。結果、出来上がる工場は妥協を多々含むものとなる。 もっと工場を広げたいのに、スペースがない、資材がない。不本意だが今はコレで間に合わせておこう。これが積み重なり、次第に工場は混沌としてくる。 これを経験すると、ゲームの外で見かける不格好なモノたちに少し寛容になれる気がする。街中で職場で旅先で見かける、明らかに非効率あるいは不格好なモノたちの背景を慮る事ができるようになる。 「わかるなぁ、俺も昨日明らかに非効率なベルトコンベアを敷設したもんなぁ。」 なおこの「引っかかり」を後にスッキリ修正したとき、まるで歯に詰まっていたネギの繊維を取り除けたときのような小さなカタルシスが訪れる。この積み重ねがFactorioの中毒性の構成要素だと思う。 そう、つまりこのレビューを見て改行が多いとか漢字の開き方に統一感がないとか誤変換が多いとかハイフンとダッシュがごちゃまぜで気持ち悪いとか、そういう点が気になるタチの方は特に、Factorioで工場を理想に近づけていく作業に喜びを感じやすいはずだ。 (そしてこのレビューの校正が雑なのは「そういう人」をあぶり出すための仕掛であって、校正の時間がなかったとか眠かったとかでは決して決して消してないのである) ■■■ 最後に ■■■ お伝えしたいFactorioの魅力は正直半分も書けていない。絵心に加えて文才もない自分が憎い。 しかし流石にレビューと称してこれ以上自分語りをするのもどうかと思うので、これくらいで切り上げさせて頂こうと思う。 最後に一つだけ。 私にとってFactorioは、my Game of the year を超えて the Game of my life であると自信を持って言える。