■■■ プロローグ:世界で最も売れたゲームで、己の無力に泣く ■■■

「どうしろってんだ…」

泣く子も黙る名作「Minecraft」の画面を前にして、私は絶望していた。こんなはずではなかった。

畑を耕し、家畜を増やし、最高品質の道具を揃え、倉庫に資源を溜め込んだ。

「さてこれで何でも作り放題だ」

眼の前に広がる無限の可能性に心躍った。

しかし今、私の眼の前には、素敵なお城でも神秘的な教会でも心躍る秘密基地でもなく、素朴な「豆腐」—サンドボックスゲーム愛好家はつまらない箱型の建築物をそう呼ぶ—があった。

白木の豆腐、石の豆腐、土の豆腐。何度仕切り直しても、私に生み出せるのは色違いの豆腐の域を出なかった。

ひどく苦労した挙げ句にようやく豆腐を抜け出し「イチゴを奪われたあとのショートケーキ」を建設したところで私は悟った。サンドボックスゲームには絵心が必要なのだ。

私は己の無力に泣いた。

■■■ Factorioとの出会い ■■■

ため息をつきながらsteamキュレーションをぐるぐる回していた私の眼に、地味なトレイラーが飛び込んできた。

「えらく貧相だなあ」

3Dモリモリが当たり前の現代に、2Dドット絵である。そして可愛くもないし派手でも爽快でもない。「あなたへのおすすめ」として華やかさのかけらもないゲームを提示してくるSteamのアルゴリズムに苛立ちを覚えながらも、何かが私の心を揺さぶるのを感じた。

せわしなく動くロボットアーム、這いずり回るベルトコンベア、駆け抜ける列車。
少年時代に大型商業施設のロビーでルーブ・ゴールドバーグ装置―いわゆるピタゴラ装置―に心を奪われていたときと同質の興奮が、私の心に沸き起こっていた。

気がつくと私は体験版をダウンロードし、体験版用シナリオを3周し—それもできるだけ長く遊べるようにクリア条件を満たさないように工夫しながら—4周目に突入しようとしていた。

製品版を買えば良いことに気付くのが遅れたのは、体験版にドップリのめり込んでいたからだろう。

こうして私はFactorioと出会った。

■■■ 絵心は二の次で良いサンドボックス ■■■

Factorioはどんなゲームか。一言で言えば最近フォロワーが続出している「工場建設系」「自動化系」の始祖にして至高である。

詳細は私の寝言よりSteamレビューでも見てもらったほうが手っ取り早い。(なおSteamレビューを見る際は、様子のおかしいレビュアー各位の「総プレイ時間」も必見である。私もプレイ時間を勉強時間に当てていれば行政書士試験を2回合格できるくらいの時間をつぎ込んだ。後悔はない。)

サンドボックスゲームの範疇だけれど、MinecraftやTerrariaと最も異なる点はビジュアルより機能を作り込むことに主眼が置かれる点だ。

製品を効率よく生産することが重視され、ビジュアルの良し悪しはさほど問題にならない(もちろん見た目にこだわりたければそれも良い)。何か作りたい気持ちはあるけれど絵心はない自分にはぴったりだった。

Minecraftで豆腐職人をやることに疲れた方に強くお勧めしたい。

どんな人に向いたゲームか、という話題についてSNS等でしばしば大喜利が繰り広げられる。

書店の本棚から1冊だけ飛び出ているコミックを押し込まずにはいられない人、すべてがMSゴシックで作られたアマチュア製のチラシを見て血圧が上がる人、古いウィンドウズのデフラグ画面を眺めているのが好きな人…様々なネタが飛び出すが、私が最も笑ったのはこれだ。

「ラーメンのスープに浮いた油をつなげて遊ぶのが好きな人」

誰ですか私をストーキングしている不届き者は!

■■■ 人生初の完全徹夜 ■■■

華の金曜日の20時。

「思う存分夜更かしして工場を作るぞ」

そう思ってPCに向かった私の耳に、ゲーム内では聞こえるはずのない音が響いてきた。

チュンチュン

実績を解除しました!「一睡もせずに完全徹夜」

何を隠そう睡魔は私の天敵である。定期試験前であっても一夜漬けはしたことがない(できたことがない)し、仲間とモンハンパーティをした日にも真っ先に寝落ちしてクック先生に挽肉にされたし、サークルのカラオケオールイベントでは早々に寝部屋の主となった。

そんな私が—そこそこいいトシになり徹夜がちょっと(と言うかかなり)体に堪えるようになってしまった私が—生涯初の完全徹夜を無意識に成し遂げてしまった。
未だにこれを超える衝撃を他のゲームから受けたことはない。

なお割としっかり体にダメージが来たので、徹夜Factorioは二度とやるまいと誓いを立てた。今のところ4回ほど誓いを立て直すのみで済んでいる。

■■■ 妥協がどうして生まれるかを知り、少し世界に優しくなれる ■■■

基本的に好き放題に工場をデザインできるゲームであるが、ゲームである以上は当然、何らかの葛藤に突き当たる場面がある。

資源不足、土地不足、設計における労力不足に時間不足(と睡眠不足)。いろんな要素が「理想の工場」づくりの脚を引っ張る。結果、出来上がる工場は妥協を多々含むものとなる。

もっと工場を広げたいのに、スペースがない、資材がない。不本意だが今はコレで間に合わせておこう。これが積み重なり、次第に工場は混沌としてくる。

これを経験すると、ゲームの外で見かける不格好なモノたちに少し寛容になれる気がする。街中で職場で旅先で見かける、明らかに非効率あるいは不格好なモノたちの背景を慮る事ができるようになる。

「わかるなぁ、俺も昨日明らかに非効率なベルトコンベアを敷設したもんなぁ。」

なおこの「引っかかり」を後にスッキリ修正したとき、まるで歯に詰まっていたネギの繊維を取り除けたときのような小さなカタルシスが訪れる。この積み重ねがFactorioの中毒性の構成要素だと思う。

そう、つまりこのレビューを見て改行が多いとか漢字の開き方に統一感がないとか誤変換が多いとかハイフンとダッシュがごちゃまぜで気持ち悪いとか、そういう点が気になるタチの方は特に、Factorioで工場を理想に近づけていく作業に喜びを感じやすいはずだ。
(そしてこのレビューの校正が雑なのは「そういう人」をあぶり出すための仕掛であって、校正の時間がなかったとか眠かったとかでは決して決して消してないのである)

■■■ 最後に ■■■

お伝えしたいFactorioの魅力は正直半分も書けていない。絵心に加えて文才もない自分が憎い。

しかし流石にレビューと称してこれ以上自分語りをするのもどうかと思うので、これくらいで切り上げさせて頂こうと思う。

最後に一つだけ。
私にとってFactorioは、my Game of the year を超えて the Game of my life であると自信を持って言える。

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■■■ パズル嫌いの私とOpus Magnum ■■■

私はいわゆるパズルゲームが苦手だ。苦手という言葉はこの文章が不特定多数に読まれるからオブラートに包んだ表現であって、本音はお察し頂きたい。

必死で考えて答えにたどり着いても、それはパズル制作者のお膳立てした想定解を見つけ出したに過ぎない。手のひらで踊らされている。撒かれた貝を拾うだけのニセ潮干狩りのようだ。

わざとらしい誘導やメタい手がかりで正解にたどり着くのも屈辱的である。「不自然なこの障害物!ヒントに違いない!出題者親切!」親切というのはオブラート(中略)

多くの場合唯一解であるため、解答を公開することは単純にスポイラーである。「おれさまの素晴らしい回答を見よ!」と見せびらかしたくてもみんな同じ答えだし単に迷惑だ。

そう言わずに素直に楽しめばいいのに、と言われそうだし自分でもそう思う。それでもどうしても気になってしまう、そんなクソ面倒くさい人間が私なのだ。

しかし一方で――これらを全て解消してくれた異色のパズルゲームが本作である。

■■■ みんな違ってみんな良い、サンドボックス的パズル ■■■

ゲームの内容を掻い摘んで言えば「指定された物質を作り出す装置を組み上げよ」というものである。詳しくは公式説明文を見てほしい。

私にとって本作の最大の特徴は「解が無数に存在すること」だ。指定された物質を規定の数だけ納品できれば、どれだけ不細工でもクリア判定。

装置の各部品にはコストが設定されているのでコスト削減を競っても良い…のだが、別にどれだけ高くついても構わない。(金欠っぽいストーリー展開だけど別に怒られない)

納品完了までの工程数が計測される…のだが、別にどれだけ時間をかけても構わない。(時間的に余裕なさそうなストーリー展開だけど別に怒られない)

装置の占有面積が計測され表示される…のだが、別にどれだけ空間を無駄遣いしても構わない。(アジトは狭そうなストーリー(中略))

あるいはこれらコスト・時間・面積の総合力を競っても良いし、あるいは全部無視して見た目に面白い動きを追求してもいい。

つまりはサンドボックス的性質を持ったパズルなのだ。作問者の想定解を追い求めなくて良い。手のひらの上を超えて好きなところで踊って良い。

■■■ パズルなのに解答を見せびらかしていい ■■■

多くのパズルゲームにおいて、解答を公開することは推理小説の犯人の名をバラすのに等しい大罪だ。しかし本作では解答は人それぞれだし、解の良し悪しの基準もみな違う。解答を公開しても殴られないし絶交もされないのだ。

「君はそう解いたのか、悪くないね。だが私の美的感覚ではこっちだ。」「そういう解決策があるのか、パk…参考にさせて頂こう」「俺の最速解を越えただと…ギギギギ!!(歯ぎしり)」

こんな具合に他人の解答を見て楽しむことができる。(奥歯がだいぶすり減る)

嬉しいことに、動作する装置のGIFアニメーションを出力することができ、SNSで共有しやすくなっている。(ぜひ #opusmagnum でtwitterを検索してみてほしい。ピタゴラ装置のように動くアニメーションに心ときめいたなら、あなたも錬金術師デビューしよう)

■■■ 私に仲間をもたらしてくれたゲーム ■■■

私がどうしてもこのゲームについて書きたかった理由はこの「SNSとの相性の良さ」だ。SNSに投稿しやすい仕組みに乗っかることで、それまでインターネットの海に呪詛を垂れ流すだけだった私のアカウントにフォロワーさんが現れたのだ。

数は多くないものの、クセの強い本作を愛好するだけあってゲームの好みが似ている方が多く、身の回りにゲーム仲間のいなかった私のゲームライフは劇的に充実した。私のフォロワーさんのうち本作で繋がった方はけっこうな割合に上る。本作とフォロワーさん各位には感謝してもしきれない。

■■■ 2Dグラフィックのインターフェースから生み出される不思議な没入感 ■■■

グラが良い効果音が良いストーリーが良い操作性が良い。どうせあらゆるゲームレビューで同じことが書かれるだろうからまとめさせて頂いた。(我ながら性格が悪い)

ただ私にとって印象的だったのは、「設定」画面にさえサイドストーリーが用意されている点だ。第4の壁のこちら側にあるはずの設定画面をゲーム内に引き込もうとするこの演出は、名作「undertale」でゲーム内のキャラクターがボタンを破壊してくる演出を彷彿とさせた。世界観や没入感に対するこだわりが垣間見える演出だと感じた。

■■■ 開発元について ■■■

泣く子も黙る有名タイトル「Minecraft」の前身と言われる「Inifiniminer」というゲームがある。実はこの Infiniminer の開発元が、本作開発元の Zachtronics である。良いゲームを作るセンスを持ったスタジオであるといえるのではないだろうか。

惜しむらくは先日Zachtronicsは新作の開発を停止する旨を発表した。恩義を感じる開発元だけに、大変残念だ。せめてもの感謝のしるしとして、こうしてレビューを書かせて頂くことにした。

キモいレビューでごめんなさい、そして本当にありがとう。

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