🤖🤖🤖長い長いプロローグ:邂逅と別離🤖🤖🤖

「これはメックウォーリアというんだ」

中学校の視聴覚室のパソコンに私物のゲームを勝手にインストールした挙げ句、掃除の時間に生徒に見せびらかすという悪事の数え役満のような不良英語教師”トム”の言葉が、私にとっての天啓となった。

箒を放りだして、クラスメイトのヒロキくんと私は画面にかぶりついた。

数日後、裕福であったヒロキくんは件のゲーム「メックウォーリア2:傭兵部隊」を購入し、プレイ体験をマシンガンのように私に浴びせた。裕福ではなかった私はハチの巣になりながら這々の体で帰宅し、枕を殴り噛みしめ涙で濡らした。私に出来たのは、ヒロキくんのお気に入り機体「TimberWolf」と「Summoner」を英和辞書で調べながら妄想にふけることだけだった。

メックウォーリア3との出会いは高校生の頃だった。今や廃刊となった某PCゲーム雑誌に収録されていた体験版は、今やnVidiaに駆逐された某社製グラボを搭載した父のPCでは動作しなかった。私に出来たのは、同誌の記事で強敵として紹介されていた機体「Thor」を辞書で引きながらチベットスナギツネの顔真似をすることだけだった。

メックウォーリア4との出会いは大学生の頃だった。インターネットが当然のインフラと見なされつつあった時代だった。製品版を買う余裕がなかった私は、体験版を大いにやり込んだ。

数年後、無料版なるものが公開された。私は歓喜すると同時に一抹の不安を感じていた。無料配布など異常事態である。ライセンス関係で何かのっぴきならない事態が発生したのではないか。当時は今のような優れた翻訳AIは存在せず、当時も今のように私の英語力はゴミカスだった。配布サイトの記事を理解できなかった私には事情を知る術はなかった。

そして長い沈黙が訪れた。10年以上にわたり、メックウォーリアの新作の名を聞くことはなかった。私に出来たことは、ファンサイトを漁って私の最推し「MadCat」がヒロキくんの最推し「TimberWolf」の別名であることと、強敵「Thor」がヒロキくんの推し「Summoner」の別名であることを突き止めることだけだった。過去と現在が繋がり――そして途絶えた。

🤖🤖🤖再会🤖🤖🤖

長い月日の後にPCゲーマーとなっていた私に、再び唐突に天啓が下った。半ば無意識に、私はSteamストアに件の聖句「MechWarrior」を打ち込んだ。

MechWarrior5。

“5”。存在するはずのないナンバリングが私の目に突き刺さった。何度も目をこすり頬をつねった後、私は自分が奇跡を目にしていることを理解した。前作メックウォーリア4の発売から実に20年目のことであった。

自分の中にいる中学生の自分が目を輝かせ、高校生の自分が拳を突き上げ、新米社会人の自分が涙を拭い、現在の自分はレモンサワー混じりのよだれを垂らした。

気がつくと私はゲームだけでなく、数年間購入を自粛し続けていたグラボまでもポチっていた。

🤖🤖🤖アクションというよりシミュレータ🤖🤖🤖

ロボットゲームというジャンルについて、このような考察がある:

<引用>
(略)ロボットゲームは単に「キャラクターがロボットというだけの爽快感重視系アクションゲーム」か、あるいはリアルさを追求しすぎ「操作は複雑でアクション性に乏しい、地味でマニアックなシミュレーター」という印象の作品が多く(略)
</引用>

(wikipedia 日本語版 “電脳戦機バーチャロン” より)

本作は明確に後者寄りだ。プレイヤーが搭乗するロボット(「メック」と呼ばれる)の動きは鈍重で、アクションゲームと呼ぶにはペースが遅く、一方で操作は煩雑で「走る・曲がる・止まる」すらボタン一つというわけにはいかない。工事現場のユンボで殴り合いをしようとしたらこんな具合だろう。「折角なんだから思い切りガチャガチャしたい」「戦争映画ならハイスピードなドッグファイトより頭脳戦みたいな潜水艦戦が好き」というプレイヤーにお勧めだ。

一方で、自分の身体すらうまく扱えない私のような不器っちょのために、FPS式の操作に変更するオプションや、強力なエイムアシストを有効化するオプションもある。さすが20年弱の時を経て令和の世に復活したタイトル、下手くs、もとい多様性への配慮もある。

🤖🤖🤖アメリカンなデザインとロマンあふれるカスタム🤖🤖🤖

本作で私にとって最重要なのは機体デザインだ。ジャパニメーション的な「ツヤツヤテカテカ8頭身」とは対照的な「なんか大きくてブサいやつ」である。新幹線より蒸気機関車、スマートウォッチより機械式時計、スポーツカーよりバケットホイールエクスカベーター、クラタスよりメガボッツ(ロボ好きの嗜みですよね?)、という人には刺さると思う。逆関節とかダチョウ脚とか呼ばれる蠱惑的な脚部構造を持つ機体も多いのでフェチにはお勧めだ。

重量、スペース、排熱処理等の制限の中でカスタマイズも可能だ。特徴的なのは装甲の厚さやヒートシンクの量まで弄れることだ。私のお気に入りの武装はPPC(「荷電粒子砲」的なモノ)。超長射程と高ダメージを併せ持ちつつ弾数制限がない夢の武器だが、代償として非常識な熱を発生する。これを装備できる機体は限られており、また2門以上を同時発射したときに発生する爆熱を適切に処理しきれる機体はほとんどない。故に私はよく戦場の真ん中で熱暴走し、自らの機体から開戦の狼煙を上げている。

良いのだ。ロマンは全てに優先する。

🤖🤖🤖TRPG由来の「ごっこ遊び」向きタイトル🤖🤖🤖

一般受けしやすいゲームと対象的に面倒くさい要素が多い本シリーズだが、それはもともとBattleTechというTRPGに起源を持っていることに起因すると思われる。TRPGについては私も詳しくないので多くは語れないが、秀逸だと思った比喩は「目標とルールのあるごっこ遊び」というものだ。

ゲームのテンポがゆったりしていたり、部位破壊とか熱暴走とか弾薬切れといった細かなイベントが頻発し続けるのは、複数人による対話を前提とした「ごっこ遊び」と相性の良い仕様だと思う。

「敵影、捕捉しました!」「何ッ!実弾じゃなくエネルギー武装だと!?」「くッ、右腕をやられた!」など、ロールプレイをしようと思えば喋るネタが尽きないしその時間的猶予もある。配信者さんのコラボ企画に良いのではなかろうか。

私はお一人様専門なので、あらゆる難易度設定を甘々にした上で、愛機たちが玉砕したり爆散したり荒野の砂利に鼻先を突っ込んだりするのを見て妄想を膨らましている。大人のお人形遊び、いわゆる「ブンドド」の電子版として優秀だ。格好良い撃破シーンをもっと見られたら良いのだが。

🤖🤖🤖忠実さ故の制約、そして新たな出会い🤖🤖🤖

BattleTechの既存の世界観に忠実に基づいているため、ストーリーでは世界の歴史を変えてしまうような大イベントは発生しない。キャンペーンモードにおいてプレーヤーが演じるのは、殺された父の仇討ちを誓う、BattleTech世界の歴史の教科書には登場しないような名もなき戦士である。

登場するメックもBattleTechの歴史と矛盾しないものに限られる。私の最推しメックであるMadCatは、本作の舞台となる時代にはまだ存在しておらず、故にいとしいしととの20年越しの再会は叶わなかった。しかし、ヤケ酒しながら燻る私を本作は放っておかなかった。

父の遺した謎の機体があると告げられ、とある惑星の隠された格納庫の前に立つ。扉が開いてゆく。

あーはいはい。どうせこれもMadCatじゃないんだ。この時代にMadCatはいない。どうせクソ重装甲の火力おばk

ファッッッ!?!?!?

美しい左右対称形。被弾面積を抑える低い機影。十分な可動域を確保しつつもコンパクトな腕部。そして艶めかしく輝く逆関節の両脚。

おい破廉恥だ隠せモザイクを入れろCEROもZにしとけああもうレビューなんか書いてる場合じゃねぇぞ

🤖🤖🤖エピローグ:継承🤖🤖🤖

そういうわけで、中坊時代に出逢って以降、人生で最も長期間続編を待ち望んだタイトルである本作が、私にとってのGOTYである。いや待ち望んだというのは嘘だ。あまりのブランクの長さに、続編はもう出ないのではないかと疑った。セリヌンティウス、私を殴れ。ちから一杯に頬を殴れ。

私とヒロキくんにメックウォーリアを教えてくれた英語教師”トム”は、ただの邪智暴虐の不良教師ではなかった。ゲーム内の父が私に妖艶なるメック「NightStar」を遺したように、トムは私達にメックウォーリアを遺してくれたのだ。

今、私は視聴覚室で若人にメックウォーリアを布教するような立場にはない。しかし令和の世に生きる私には出来ることがある――ここYourGOTYで。

ここまで駄文を読んで頂いた奇特なゲーマー諸賢へ。

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工場系の始祖にして至高。
去年、嫌と言うほど書かせて頂いた。多くは語るまい。
何かゲームを起動しようとするたびに「Factorioとコレとどっちをやろうかな」と考えるほど、私のゲームライフに深く深く根を下ろしている。
今年リリースされた高難度DLCはこの先数年、私の時間を奪い続けることだろう。
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