『運命的な出会いと別れを繰り返す、波乱万丈なシネマティック青春アドベンチャー』
本作Until Thenはそんな偶然と必然が入り混じった人間ドラマを非常に色濃く体験できる傑作でした
本作を語るうえで推していきたい、個人的好きポイントは色々とあるのですが
特に良かったところとして真っ先に挙げるなら、やはりピクセルアートによるグラフィック表現とアニメーション演出でしょう
背景と人物が見事に溶け込んだ自然な街並み描写と感情豊かに表現されるキャラクター達のリアクションは無意識に没入してしまうほどよく出来ています
特にキャラクターの表情の変化やちょっとした行動の機微でいちいち説明しなくても「その時どう感じて何を思ったか」がこちらにも読み取れるくらいアニメによる心情表現が巧みだし、そのうえ全編通して見せ方がかなり凝られているため絵的な意味での飽きがこないのも凄く良かったと思える部分
ビジュアルノベルという体のアドベンチャーゲームでありながら言葉だけでなく絵のみで伝える説得力も高いというのは、優れた作品ならば当然備わっているものなので特筆すべきことではないのかもしれないが
それでもキャラクター同士の会話の間やセリフの淀み、チャットで話す際に相手が画面の向こう側にいて見えないからこそ言いたいことを飲み込んだり言葉を選んで文章を打ち直したりといった
より現代に近いコミュニケーションを取り入れることで共感しやすくなっている「焦り、期待、不安、戸惑い、緊張」をスマホ画面のメッセージ一つで伝える繊細的手法はやはり卓越した演出力として触れざるを得ない
それほどまでに本作のピクセルアート描写は表現力という点において他と比べても頭一つ抜けている、見せ方が上手すぎる
またグラフィック等の見た目以外の部分、特にシナリオや登場人物といったゲームの内面について触れるならば
それは未熟さが故に引き起こす人間関係の拗れ、そのリアリティ
ここを要注目の見どころとして推していきたい
友人や家族を気遣う優しさと上手く自分の気持ちを伝えられない不器用さ、またときに意固地になって自らの過ちを認めないふてぶてしさと学ぶことなく何度も間違いを犯してしまう愚かさを誰もが持っていて
繰り返されつつも少しずつ変化していく日常の中でこれらの折り合いがつけられずに、あるいは理解出来ずに衝突したりすれ違ってしまう人間模様はとてもリアルだし、そこが非常に魅力的でつい物語に引きこまれてしまう
プラトニックで初々しい恋愛模様もあれば、独自のルールによって縛られてる家庭環境があったり、将来の夢や過去のトラウマといった仲が良くても踏み込めない領域があったりと
友情、家族、恋愛、そのどれに於いても関わることで状況が二転三転しそうな危うさ、もしくは希望という不確定要素がこの人間関係を巡る話の全体を占めていて、なお且つストーリーの強い推進力になっている
これが私個人としましては、とても見応えがあって面白かったです
そしてこの等身大の人間描写とそれによって築かれた各関係性の絶妙な距離感の描き方こそがシナリオ面でのUntil Thenの他作品よりも優れている突出した魅力ポイントだと思っているので
これらの登場人物が織りなすもどかしくて切なくてある意味泥臭いストーリーと、最終的に彼らが選択した人生の行く末には本当に目が離せなかったし、それこそ友人の忘れられない思い出体験に立ち合ったようなエモさを感じられて大変素晴らしかったです
学生生活という限られた時間の中で誰と出会い、何を為すのか。そしてそこで得られたものは今後の人生にどのような影響をもたらしどんな形で自分の心に残るのか
正直こんな題材なんて数えるのも馬鹿らしくなるくらい世に溢れかえっているし、このゲームも例に漏れずそのありふれたものの一部でしかない
しかし、だからこそ、そんなありふれた世界の誰もが通る道のなか、もがき苦しみながらそれでも自分自身の存在意義をひたむきに一生懸命に探し続ける彼らの生き方には心を打たれてしまう
良くも悪くも模範的な解答が出来ないこのどうしようもない人間臭さと大切なものを繋ぎ止めていたい思春期特有の青さに惹きつけられてしまう
そういったありきたりなテーマだからこそ際立つ、作品における登場人物の実在感が私は堪らなく好きですし、そうであるが故にこれが自分にとって今年一番のゲームだったと胸を張って言える
「一生懸命」Until Thenはこの言葉の大切さと素晴らしさを改めて教えてくれる、そんな誰かの背中を押す優しさに包まれたゲームだなと思いました
普通であることは悪いことではない、普通であるからこそ誰かの特別になれるのです