面影と異質の混在する町。いつかあの場所につけた『傷跡』を見つけて…帰郷

サイレントヒル2はリメイクまで23年が経っていた。思い出にあるサイレントヒルは臆病な自分を父に力強く頼もしい手で引っ張ってもらいながら巡った町であった。
やだやだと後ろに隠れようとする自分を笑いながら色んな所に連れ回す父であったが、周りの安全が確認できると自分でも歩いてみるよう促してくることがあった。そのような時は自分から一歩踏み出すことすら非常に心細く、治ることのない耳鳴りのような残響すら感じる圧迫感を幼いながらも敏感に感じ取って怯えてしまい、すぐに父に助けを求めていた。
しかし、長い時間そこにいたせいか、次第にそんな恐怖の対象であった町に対してどこか惹かれる部分も感じるようになったのであった。果たしてそれは何もかもを飲み込んでいくこの町に漂う霧の妖しさに魅入られてしまったのか、よくわからないながらもその思いは確実に幼き日の記憶の一画に居座るようになっていた。

そして時が経ち、大人になったがふとあの町が脳裏をよぎる度に当時とは全く違う感情が湧き上がるようになっていた。

あの町が恋しいのだ。
恐怖でしかなかったあの町が、恋しいのだ。

おそらくあの幻想的な雰囲気が好みに合っていたのだと考え、町のことを調べたり映像を探してはその思い出に何度も浸かり直していた。その思いはおそらく「郷愁」と呼んで差し支えないもので、父の背中越しに眺めていた景色の映像を今度はじっくりと眺めては恋しさを鎮めていたのだった。
当然、それは思い出の中にある町のままであったはずだが、心のどこかでなんとなくその町との間に面会室のガラス窓のような透明な壁があるように感じた。

今回、このリメイクをきっかけにサイレントヒルをもう一度訪れる機会に恵まれた。「あぁ、あの町がまた呼んでいる…」などと頭のどこかが呟きつつ、ぼんやりとした期待を抱きながら町に再び降り立った自分を迎え入れてくれたのは、知らない顔でこちらを見つめてくるサイレントヒルだった。
それはまるで父と見た目は同じなのに明らかに別人が自分を迎えに来たようであり、本能がしきりに異質を訴え続けていた。
意を決して、当時のあの空気、あの街並みの懐かしさを頼りに歩みを進めようとするもそれをこの街は許さない。知らない道や建物に幾度となく導かれることで次第に自分の足取りは重くなり、一歩踏み出すことにすら強い嫌悪を覚えるようになっていった。
23年も経てばこの町も変わる…あえてそんな呑気な言葉で自分を落ち着かせようとするものの、尽きる事なく知らない顔を見せてくるサイレントヒルの中で、気がつくと自分はあの頃の臆病な自分に戻っていた…

しかし、もう頼っていたあの父の手は今はもうなく、自分で歩みを進める他ないのだ。またあの耳鳴りが生々しい圧を持って鳴り響く。それは思い出のガラス窓越しではなく、振動すら感じかねない直に感じられる音。そして、隙を見せれば狩りの如く恐怖が獰猛に飛びかかってくる。それに対して、負けるものかとなけなしの虚勢を必死にぶつけた。それも、幾度となく、幾度となくぶつけ続けた。
しばらくの間はこうして半ばがむしゃらになりながら必死に彷徨い続けていたが、ある時、ふと自分の周りのノイズが晴れたことに気づいた。あたりを見渡すと「あそこは知ってる」「ここは何度も通った」ということに気がつき、すなわち、いつのまにかそこは新しい自分のテリトリーになっていたのだった。
心にゆとりが生まれ、落ち着いて周りを改めて眺め直すうちに、胸の奥から静かにとある感覚が湧き上がってきたのだった。

「なぜだろう…達成感がすごい…。これほどの大きな達成感は凄く久しぶりな気がする…」

その後も先々で同じ経験をするうちにあることに気がついた。
自分はあの時、後悔していたのだと。
惹かれていたと思っていたのは好意ではなく、自分の殻を破れなかった心残りによる未練であったと。
幼い自分は負ってしまった心の傷を忘れるために好意的な感情にすり替えていたのだった。

しかし、この町に再訪した自分は普段ならすぐにでも逃げ出したくなる恐怖に立ち向かい、あの空間に自分の場所を確立できたのだ。あの日の心の傷跡に向き合い、乗り越えられた。それがかけがえのない達成感に変わったのだった。
それは当然、すでにわかりきっていた町であれば決して得られない体験であり、そもそもこの心の傷跡を思い出すことすらなかっただろう。
しかし、サイレントヒルはあの日感じた不気味さは同じまま、全く異なる顔を見せることで再びこの傷を眼前に突きつけたのだった。あの日をもう一度提供するために「変えることなく、変わった」のだった。

決して懐かしさに飾り立てられた上部だけの「昔のまま」ではない。昔訪れた人々を懐かしさで歓迎するのではない。
時の流れを受け止め、変容し、あの日あの場所にいた自分と同じ気持ちにさせるため大きく作り直されたサイレントヒルがあったのだ。あの達成感という勲章を今一度届けるために、そして、サイレントヒルを忘れるなと言わんばかりに…

もはやこれをレビューと呼んでいい代物なのかすらわからない…だが確かにこう感じたのだ。誰に届けるでもないが、念のためこの帰郷譚はここに書き残しておく。
あの町でしばらく行動を共にしていたジェイムスも、きっと忘れていた何かを見つけたことだろう。
そして、昔サイレントヒルを訪れたことがある人もまた、きっと記憶の底に沈んでいた当時と変わらない感情に出会えるだろう、と。


サイレントヒルはリメイクされながらも
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