Minds Beneath USは台湾のBearBone Studioが制作した、SFミステリーアドベンチャーゲームです。配信プラットフォームは2024年11月時点でSteamのみ。日本ではまだマイナーなこの台湾発インディーゲームが私のGOTY2024となりました。


■世界観と舞台設定
世界観は近未来のサイバーパンクで、場所は台北や上海あたりを想像するとしっくりきそうです。この都市の交通はすべて国のAIによって自動化されていて、そのAIは演算力によって駆動しています。演算力が足りなくなると交通がマヒし、渋滞が起こるという具合です。
そして恐ろしいことに、この世界ではその演算力を人間の脳から抽出します。人間の労働コストよりもコンピュータの価値の方が高いため、人間から直接演算力を得るのが最も安価な方法なのです。そんなディストピアな世界で、貧しい人々は自らの身体を演算力の原資として企業に提供し、その対価を受け取ってなんとか日々を暮らしています。そして、この世界でAIが管理しているのは交通機関だけではありません。人々の個人情報や行動履歴はすべてAIに監視され、企業の入社試験ですらAIまかせです。あらゆる物事が記録・統制され、極限まで自動化された監視社会都市。それがこの物語の舞台です。
そんな世界でプレイヤーは主人公の「ジェイ」を操作し、その演算力を生産する工場でスタッフとして働きながら、組織が抱える様々な構造的な問題に立ち向かうことになります。

■「選別組」と「操作組」の対立
工場には「選別組」と「操作組」と呼ばれる2つの対立する部署が存在します。
「選別組」は演算力のために身体を提供する人々(供給者)の選別と採用を行います。演算力供給はスラム街で暮らす貧しい人々にとっては破格の報酬を得られる仕事なので、選別組はたくさんの希望者の中から適性のある人材を見極めて採用します。逆に言えば、本当に生活に困っている人でも適性のない人は心を鬼にして不採用にしなければなりません。選別組のスタッフはそのようなストレスに常に向き合いながら仕事をしています。
「操作組」ではその供給者から演算力を抽出する作業を行います。その作業は高度な機材と専門的な技術を必要とする上、事故が起きれば供給者の命を奪いかねないシビアな仕事です。また、操作組は老朽化する設備のメンテナンスも担当していますが、上層部に修繕予算を要求してもなかなか許可がおりません。そのため結果的に設備の老朽化による事故は増え続け、事故によって命を落とす供給者も増え続けることになります。操作組の多くのスタッフはこのようなアンモラルな状況にうんざりしながら、日々の仕事をこなしています。

操作組はいわゆる技術職で業務もシビアなので、その給与は選別組に比べて高く設定されています。しかし、選別組は操作組の具体的な業務内容を把握していないため、操作組の給料が自分たちより高いことに不満を持っています。対して、操作組は選別組が質の悪い供給者を採用する事や、自分たちより楽な仕事をしながら給料について文句を言っている事に不満を持っています。
この構図を見て、会社勤めをしている方なら「組織あるある」だと感じるのではないでしょうか。このようないわゆる総合職と技術職による対立構造は現実の組織でもよく見られる現象です。

■問題だらけの工場と愛すべき同僚たち
このように工場では供給者の死亡事故が多発しており、ついにはその遺族による報復テロ事件が発生してしまいます。主人公の活躍もありテロリストは確保されその場はいったん収まりましたが、今後また同じようなことが起こる可能性は十分にあります。
さあ、プレイヤーはこれらの問題にどう向き合うのか。選別組と操作組どちらか片方の部署に肩入れするか、双方を立てながらバランスをとるか、または問題をガン無視して静観することも(たぶん)できます。どれが正解という選択肢はありません。このゲームはプレイヤーに選択を求め、「異常に作りこまれた選択分岐」によって、あなたの選択に答えてくれます。
この「異常に作りこまれた選択分岐」は、あらゆる登場人物との会話でも同様です。工場に勤務する同僚たちは、会話の中であなたの選択に応じて実に多彩な反応を返してくれます。愛すべき彼らはとても人間らしく、その個性は「異常に作りこまれた選択分岐」によって有機的に立ち上がり、まるで本当に生きている人間と会話をしているような感覚にさせてくれます。

■リニアでスリリングなストーリー展開
ストーリーの前半ではこのような演算力工場でのすったもんだが描かれますが、後半は国家や政治や特殊部隊が介入し、よりスケールの大きいスリリングな話になっていきます。前半が「組織あるある」だとしたら、後半は「政治あるある」というような、シリアスでグロテスクな展開がプレイヤーを待っています。(このレビューを読んだ人にはぜひこのゲームをプレイして欲しいので、後半部分には一切触れずにおきますね。うふふ!!)

さて、このように書くとまるでこのゲームが「デトロイト・ビカム・ヒューマン」のようなマルチストーリー・マルチエンディングのようなゲームに思えてくるかもしれませんが、実はけっこう違います。一応最後は簡易的なマルチエンディングになっていますが、ストーリー自体はかなりシンプルでほぼ一本道です。そういう意味ではジャンル的にアドベンチャーと言うよりビジュアルノベルやナラティブに近い作品です。このゲームの良さは前述したとおり「異常に作りこまれた選択分岐」にありますが、それはあくまでも登場人物との会話であったり、限られたシークエンスで限定的に機能するものです。そこだけ、誤解の無いように断っておきます。

■欠点も多いがそれ以上の良さがあるゲーム
このゲームは低予算のインディー作品なので、大掛かりな仕掛けはほとんどありません。当然ボイスも無いし、キャラクターの顔に至っては全員のっぺらぼうです。正直ストーリーの突っ込みどころも少なくないし、若干のご都合主義も垣間見えます。そういう意味ではそれなりに欠点の多いゲームとも言えますが、その欠点を補って余りある良さと新しさがこの作品にはあります。

選別組と操作組の対立構造に代表されるように、この作品は終始一貫して「絶対的な正義や普遍的な正しい価値観は存在せず、時代や立ち位置によって常に変わるのだ」というメッセージを訴えかけてきます。そして繰り返しプレイヤーに選択をさせ、その結果を繊細にフィードバックさせることで物語への没入を促し、プレイヤー自身は否応なく自らの選択の重さとその結果に向き合わされることになります。すべての人が満足する選択肢はほぼなく、誰かが得をすれば誰かが損をする、そんなリアルなシビアさも気に入りました。この作品は小説でも映画でもない、ビデオゲームだからこそ表現できる手法をしっかりと提示してくれます。そしてそれは、ビデオゲームというジャンルにおける大きな達成であると私は感じます。低予算ながらこれだけ奥深い独自の魅力を放つビデオゲーム作品を私は他に知りません。

・・・・・・

こんなクソ長いレビューを最後まで読んでいただきありがとうございます。
この作品の良さはまだ書ききれませんが、これ以上長いと誰も読んでくれなそうなので、これくらいにしておきます。
最後にもうひとつだけダメ押しすると、私はこのレビューの冒頭に「プレイヤーは主人公のジェイを操作し~」と書きましたが、これは意図的にそのように表現しました。実は本レビューではこのゲームのもう一つの大きなフックについて敢えて触れていません。このゲームではプレイヤーは主人公のジェイではなく、「ジェイを操作する謎の存在」として関わることになります。
「え?どういうこと??」と気になる人はSteam Storeで「圧倒的好評」のこの作品をぜひプレイしてみてくださいね。うふふ!!

【Steam store】
https://store.steampowered.com/app/1610440/Minds_Beneath_Us/
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時は1986年のアメリカ。
主人公のメレディス・ワイスは今でいうIT企業に勤める40代の独身女性。
都会で忙しい日々を送っていた彼女でしたが、ひょんなことから郵便局員の父親の代役を務めるため、数十年ぶりに故郷に帰ることになります。

故郷のプロビデンス・オークスは美しい湖のほとりに佇むこじんまりとした田舎町。
ゲームタイトルの「Lake」はその湖にちなんで名づけられています。
彼女はその町で郵便局員として手紙や小包を配達しながら、様々な人々との再会や新たな出会いを経験することになります。

久しぶりに会った旧友は、今では結婚して2人の子持ち。
家事に仕事に奮闘しながら趣味の音楽もあきらめず、忙しい日々を送っています。
町のメイン通りに最近できたらしいレンタルビデオ店、そこは少し変わりモノのサブカルお姉さんが経営していて、、、などなど。

メレディスは配達先で世間話をして、たまに旧交を温めたり、食事に誘われたり、休日に猫や子供の世話を頼まれたりします。
このゲームでは特に劇的なことはほとんど何も起こりません。
一応ロマンス要素もありますが、酸いも甘いもそれなりに経験した中年らしいささやかなものです。
でもそれが良いのです。
そこに美しい湖があるだけで、そこに住むすべての人の営みがとても愛しいものに感じてくるのだから不思議なものです。

もちろん、住民はすべてがいい人ばかりではありません。
せっかく荷物を届けてあげたのに、邪険に扱われてムッとすることもあります。
嫌味の一つも言いたくなりますが、そこはおおらかな心で受け止めてあげましょう。田舎町に暮らすというのはそういうことです。
そんなリアリティもこの作品の好ましいところです。

そしてゲームの終盤では、あなたはこの街に残るのか、都会に帰るのか、選択を迫られることになります。
都会に戻れば1980年代のIT企業です。復帰すれば後にGAFAMと呼ばれるような大会社のお偉いさんくらいにはなれるかもしれません。
さあ、あなたはどちらを選ぶのか、、、


都会の仕事に疲れて「ああ、田舎に移住してのんびり暮らしたいなあ」なんて思っている方にはぴったりの作品です。
このゲームはある意味とても退屈な作品です。そして、田舎暮らしとは基本的に退屈なものです。
はたしてあなたは退屈を楽しめるのか?そういう意味でも、あなたが人生の岐路に迷ったとき、ヒントをもらえる作品かもしれません。
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