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ザ・ケース・オブ・ザ・ゴールデン・アイドル

Game of the Year 2024
ジョン@営農とサブカル さん
Project_Y: Working Title
本作は、「聴いたら呪われる怪談」にまつわるホラーゲームだ。 ゲーマーでも、知っているひとはおろか、やっているひともいないであろう課金のスマホゲー(2024年11月時点で900円)である。 もともとは、Meta Quest用VRゲームとしてリリースされ、今年の10月にiOS用にリリースされた。 ゲームとしてやることは、どうも「聴いたら呪われる怪談」について取材していたオカルトライターのY(仮名)が、なんでかしらんけど360度カメラで撮影した映像を調べていくことだけ。 プレイヤーはその360度カメラの映像を、スマホを実際にその方向に向けながら、映像に写っているもの、語り手やYが、撮影当時に気づいていなかった怪異を探していくことになる。 プレイヤー(おれ)は、どこでこんな動画を手に入れて、なんでこんなものを見る羽目になったのかはわからない。(たぶん、App Storeで900円で買ったから) けれど、見てしまった以上、プレイヤー自身も、この動画を撮影したYと同様に「聴いて呪われた」状態になってしまう。呪いを解くためには、Yが調べたことをもとに、Yと同じように動画のなかに入り込んだ怪異を発見し、それを見なければならない。 これが、結構、怖い。 FANZAで大人向けの3D映像を見られたことがある18歳以上の諸兄には分かっていただけると思うが、見たいものを見たいアングルで好きなだけ見るのはとても楽しい。 だが別段、見たくないおばけや怪異を自分で探して見続ける、という行為は反転して、ホラーを見慣れている私でも、まあまあ嫌な気分になる。出てくる怪異も、ぼんやりと存在感をもって現れてくる「品の良い出方」をする怪異で、なおのこと、じっとりと怖い。 そして、このゲームがホラーとしてとても優れているのは「使っているメディアの特性を使って、端末ごと呪ってくる」という手法をしばしばとるからだ。 本作は、VRゴーグルでプレイするよりもiOSの端末でやるほうが恐ろしい、と私は思う。 VRゴーグルは映像に没入できるが、ゴーグルを外せば怪異は消える。けれど、スマホは、怪異が現れたことによって、スマホごと呪われたような気がしてしまうのだ。 そして、本作のすごいところは、この怪異が引き起こす「呪いによる身体の異常」はゲームをしていると実際に「プレイヤー自身の身体にも起こる」。 私の身体にも、Yと同様の不調が起きた。 幸いにして、私は無事生き延びて、こんなレビューを書いているわけだが、このゲームはメディアを通して、ほんとうに「ひとを呪う」ということに、半ば成功している。意図したものだとしたら、ほんとうに、よく出来た「呪いのビデオ」だと思う。 ただ、このゲームはその手法を使っている結果、ホラー作品としては「反則だ!」と思うようなことをやってのける。 詳しくは書かないが、私は、ゲーム中にスマホをぶん投げる羽目に何度か陥ったし、夜中に「ふざけんなよ!」と叫んだりもした。 なかなか40代のおじさんを叫ばせたり、スマホをぶん投げさせたりするホラー作品はないよ。そして、あとでスマホを取りに行くときの虚しさは格別よ。 ホラーがお好きな方は、ぜひともやってみたら良いと思う。 基本的に褒めるところのほうが多いホラーゲームであるが、気に食わない点がいくつかある。 本作は多くのモキュメンタリーホラー作品がそうであるように「説明くさい」。 Yはけっこうカメラ目線でヒントを言う。Yの職業が、オカルト系動画配信者なら、語りかけるのも納得なんだけど、なんか変な感じがした。役者さんは迫真の演技をしている分、説明っぽさが際立ってしまって、なんかな、と思ってしまう。こう思うのは、私が怪談に本当っぽさを求めてしまうからなのだけど。 怪異も品が良いほうではあるのだが、後半にいくほど「お調子に乗ってくる」。 具体的には、この作品のお化けは、次第にジャンプスケアをやるようになる。スマホのジャンプスケアはほんとうにひどい。私が叫んだり、スマホを投げたりしたのも、だいたいこれのせい。 いたいけなおじさんになんて酷いことをするのか。 想像してほしい。 FANZAの3D大人向け動画を見ている最中に、カメラを向けた先に、マジモンの幽霊が写っていたとしたら。そして、その幽霊が画面から飛び出んばかりに見ているこちらに向かってきたとしたら。「愚息もしょんぼり」ではすまないことになる。ジャンプスケアがなくてもちゃんと怖いのに、どうしてこんなひどいことをするのか。 そして、モキュメンタリーであることをぶん投げる映像が後半に入ってくる。 この辺は、昨今のホラー映画のモキュメンタリー作品もやっていることではあるので、流行りなのかなーとも思うが、あんまり私の好みではない。この辺は、ベタな、御愛嬌の部分だな、と思わなくもないが、ちょっと勿体無い感じがした。 色々書いたけれど、ホラーゲームとしてはもちろん、映像の体験としてとても新しい経験であった。 これを体験する料金として「900円」はとても安い金額だ。プレイ時間も5時間を切るくらい短いので、時間のないひとも、ぜひ試してみてほしい。