『ハロルド・ハリバット』
地球を脱出した宇宙移民船フェドラ1がとある惑星の海に墜落して50年。宇宙船の中では一つの社会が形成されていた。
ライフラインの整備に従事する者、起業する者、娯楽や文化を伝える者、研究者、教育者、そして次の世代を担う子供たち。
その中でマロー博士の助手を勤めながら平凡な日々を過ごす青年ハロルド。
水面下で進む惑星脱出計画と宇宙船社会に隠された真実。その中で彼はとある出来事を境に外の世界への憧れを募らせ、人々とのふれあいの中で人間的にも成長していく─
ゲームとしての内容といえば、基本的にはフラグ立てとその回収を淡々とこなす地味な展開です。たまにパズルを解いたりとか。
特筆すべきはやはりそのグラフィック。実際に作られた人形や模型をスキャンし、CGモデルとして3D空間に再配置することで、独特な存在感と温かみを表現しています。
まるでクレイアニメやパペット人形を画面の中で操作するような不思議な感覚。
製作に10年を費やしたということに、並々ならぬ拘りを感じたのが購入を決め手でもありました。
しかし、プレイしているとその事すら忘れてしまうほど魅力的なのが設定とシナリオです。
1日が経過する度に墜落してから1万と数千を超える日数、そして運命の日までのカウントダウンが表示されます。
これまで宇宙船社会が辿ってきた歴史に想いを馳せ、これから何が起こるのか想像を掻き立てられます。
そしてハロルドは彼自身の冒険心に火をつけた出来事と日々のフラグ回収の中で、平凡だった自分の人生と自身の心の中を見つめ直し始めます。
ゲームをクリアして彼の物語を見届けた後、スタッフロールが流れている間に様々な想いが巡りました。
ハロルドは終盤にある決断をするのですが、当初プレイした中ではその決断をするにはいささか情報が足りないと感じました。
しかし、宇宙船の中で生まれ育ったハロルドの気持ちを、プレイヤーは本当の意味で理解できるのでしょうか。
惑星に墜落する以前から宇宙船は250年、宇宙を彷徨っていたといいます。宇宙船の中で生まれ、宇宙船の中で死んでいった人々もいるでしょう。
彼らにとって宇宙船の中だけが世界そのものだった。
果たしてそれは不幸なことでしょうか。
現実を生きる我々は宇宙船の中ほどではないにしろ、ある程度の行動範囲と価値観の中で生きているという意味では同じではないだろうか。
そこから飛び出すことには勇気や覚悟が必要です。後悔や孤独が待ち受けているかもしれません。
しかし、前向きに飛び出していくことが最善とも言い切れません。
そこで生まれ、死んでいく間に自分の使命に従事することに満足感を得られれば、それも一つの幸せと言えるでしょう。
…と、そんなことを考えていると、気付けばスタッフロールは終わり、タイトル画面に戻っていました。
その余韻はゲームをクリアしてしばらく経った今でも心の片隅に残っています。
アクションゲームや豪華な演出のゲームにちょっと疲れたなと思ったら、このゲームをプレイして、ハロルドをはじめ登場人物の想いを想像したり、自分自身の環境やこれまでの人生を照らし合わせて物思いに耽るのも良いかもしれませんね。
幻想的で穏やかな時間を過ごしつつも、考えさせられる作品でした。