Outer Wildsは2020年6月にリリースされた、オープンワールドのSFアドベンチャーです。プレイヤーはOuter Wilds Venturesの新米宇宙飛行士として、20分でタイムループする恒星系を調査する任務に採用されます。その中で先輩達の足跡を追って話を聞き、古代エイリアンであるnomaiの記録を読み解くことで、この恒星系に何が起こっているのかに迫っていく…というのがこのゲームの大まかなアウトラインです。
独創性が非常に高く、クリアに至るまで全編を通して試行錯誤、考察を繰り返すことが求められます。ですので、謎解きや考察が好きであったり、探索すること自体を楽しめる方にはぜひプレイしてもらいたい、唯一無二の体験ができるゲームです。

さて、Outer Wildsの魅力を語るにあたってまず伝えておきたいのは、このゲームが決して万人受けするゲームではないということです。
ゲームを始めたばかりのころ、操作に慣れないうちは何度も不慮の事故に遭います。無重力空間では思ったようにコントロールできないことが多く、見えている危険地帯にうっかり突っ込んだり、勢いよく地面に激突したり、はたまた探査船で飛び立ったとたん太陽にダイブしたり……ちょっとしたことで簡単にリスタートとなる設計に心が折れてしまうプレイヤーもいるでしょう。
また、特に序盤においてのガイドが十分ではない点もハードルを高くしています。おそらくOuter Wildsのことを素晴らしいゲームだと評価する人でさえも、「始めの数時間は何をすればいいのか、何を楽しめばいいのかもよくわからなかった」ということが多いのではないでしょうか。

具体的に説明していきます。
ゲームをスタートさせると、プレイヤーは焚き火の前にいます。何の説明もありませんが、とりあえずNPCとの会話で、どうやら今日は自分が宇宙飛行士として飛び立つ日らしいことがわかります。周囲を探索してなんとか探査船で飛び立つものの、探索の指針らしきものは明確に提示されていません。手近な星を調べても断片的な情報が手に入るばかり。そして明確な指針もないまま他の星々の探索を続けますが、なかなか目的や全体像が把握できません。
このように、本作では「どこへ行って何をするか」が終始プレイヤーの手に委ねられています。非常に自由度が高い一方、ある程度進行するまでその魅力を理解しにくくなっています。
私も始めの4時間ぐらいはこのゲームの本質的な面白さを全く理解できないで「無重力空間での動作が妙にリアリティあるな!難しいけど動かしてて楽しいぞ!」ぐらいしか考えていませんでした。

しかし、これらのとっつきにくさは本作の『主人公=プレイヤー』という仕様と自由なプレイングを重視した結果、遊びやすさとトレードオフとなって現れてしまったものだと思います。
本作においてプレイヤーは新米飛行士として宇宙を調査する任務に採用されています。当然探査船の操作にはまだ不慣れで、宇宙はまだまだわからないことだらけ。Outer Wilds Venturesの先輩たちも伝えるべき情報はわずかしか持っていません。
これでは「まずあそこに行ってこれをしましょう」といった指示は出しようがないわけで、プレイヤーが自分で立てた指針に沿って探索を行うことになります。つまり、あの星はどんなところで何があるんだろう、この恒星系に何が起こったんだろう、という好奇心や探究心がゲームプレイの原動力になるわけです。
もちろん、ゲーム的に丁寧なガイドを作ることは可能でしょう。しかしそれは不自然さを感じさせ、ゲーム特有のご都合主義を浮き彫りにしてしまいます。
そう考えると、操作が難しいこともガイドが不親切なことも、新米飛行士の置かれた状況をリアリティをもって描くためにあえてそのように作られたのだ、と個人的にはそう感じました。

一方で、中盤あたりからの探索と発見、そして気付きから次の探索へと連鎖する途切れることない濃密なプレイ体験は、やめ時を見失って睡眠時間を圧迫すること請け合いです。
本作は探索がプレイの中心でありながらインベントリの概念がありません。持ち物はフラッシュライトと音を探知するシグナルスコープ、そしてnomaiの翻訳機だけです。何かを持ち運ぶことはありますが、アイテムとして手に入れることはありません。
では探索して得られるのは何か?それは「情報」です。
何度もループ繰り返しながらプレイヤー自身がこの宇宙に関する知識を積み増していきます。主人公は何も考えても思いついてもくれません。考えるのはプレイヤーの仕事です。様々な星の遺跡、墜落したシャトル、Outer Wilds Venturesのメンバーから得られる細切れの情報。それらを組み合わせることで、過去に起こったことを推察し、現地へ赴いて確認、あるいは実証し、そして新たな情報を知り、別の気づきが起こる。このようなサイクルが、先述した「好奇心がプレイの原動力である」という点と強く噛み合って、加速度的にプレイヤーを作品世界にのめり込ませていきます。

こうして20分という短いループから辞めるタイミングを見失った多くのプレイヤーの睡眠時間を圧迫しながら、物語は予想もしなかった結末にたどり着きます。
さて、ここでもう一つ、本作で一貫して描かれている重要なことに触れておきたいと思います。
それは宇宙を含む自然に対して人ができることはごく限られたことに過ぎないということです。
本作に登場する星々は非常に特徴的で、それぞれが主人公の属する種族にとってもnomaiにとっても過酷な自然環境を備えています。巨大な竜巻に探査船が巻き込まれて宇宙空間に放り出されたり、隕石で地表が崩れたり、砂に埋もれて押しつぶされることもあります。このような自然現象に対して主人公ができることはありません。ただただ翻弄されるのみです。いうまでもなく太陽の熱や強大な重力、ブラックホールにはなす術もありません。
そこには自然や宇宙への畏敬の念が表れていて、これもまた本作に通底するテーマだといえるでしょう。
この過酷な宇宙で、主人公にできることはわずかしかありません。それでも何度もループしながら宇宙の謎に挑み続けたその姿勢、そしてついにたどり着いた結末は、届くはずもないと諦めずに手を伸ばし続けることで得られるものがあると教えてくれるのではないでしょうか。

繰り返しますが、本作は誰にでもオススメできるゲームではありません。発売から時間も経っており、新作ゲームに比べればグラフィックが非常に美麗とも言えません。また、強い信念に貫かれたゲームデザインによって非常に尖った作品になっています。しかし、だからこそ他のゲームにはないプレイ体験をもたらしてくれる。そんな唯一無二のゲームがOuter Wildsである。そう思います。
もし、このレビューを読むことで興味を持っていただけたなら、(少し覚悟を持って)一度プレイしてもらえれば嬉しく思います。
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