想像してみてほしい。
あなたは突如、余命わずかとなった。
前代未聞の症状のため、治す方法は簡単には見つからない。
命の危機が迫る中、治療法を求めてあなたは奔走していた。
そこに知らない人物から一本の電話が。
「あなたを助ける方法を知っている」
「その方法を提供する代わりにこちらを助けてほしい」
思わず笑ってしまう状況だ。どうやら自分はすでにこいつの手のひらの上らしい。
なぜ限られた者しか知らない自分の状況を知っているのか?
本当に助かる方法を知っているのか?
そもそもこいつの正体は?
こんな状況で何も怪しまず「Yes」と言うほどバカなあなたではない。
しかし他に手がないのも事実。放っておけば理不尽で残酷な死が待つのみ。
こちらの状況を知っている時点で只者でないことは確かで、
話に乗れば何かしらの手がかりが得られる可能性は高い。
さて、あなたはまず最初に選ばなければならない。
電話をかけてきた正体不明の人物に従うのか。
それとも従うふりをして死を回避する手がかりだけを搔っ攫うのか。
わからないことばかりだが、これだけは言える。
諦めるな。
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「サイバーパンク2077:仮初めの自由」は、ディストピアでサイバーパンクな街、ナイトシティを舞台にしたロールプレイングゲーム「サイバーパンク2077」の最初で最後の有料DLCである。
その「仮初めの自由」で体験した凄まじいゲーム体験には心底感動した。
スパイスリラーをテーマに制作された「仮初めの自由」は、冒頭に書いたあらすじのように導入から怪しさに満ちている。
このDLCを説明する際によく用いられる表現として「誰が敵で、誰が味方かわからない」というものがある。プレイした感想としてもまさにその通りで、プレイヤーは常に登場キャラクターたちの言動、表情、行動に気を張ることになる。
(これは本当のことを言ってるように見えるな)
(悲しそうな顔をしてる...嘘はついてないのでは?)
(これが演技だったら俳優になれるだろ)
(いや、もう全然わからん)
そんな風にプレイ中は必死に手掛かりを探そうとするが、とにかくわからない。
だがそれが良い。
このゲームの舞台「ナイトシティ」に自分は住んでいる、と半分錯覚するほどの没入感を得られるこのゲームで、“わからなさ”に溺れる緊張感と心地よさ。
必死に悩み、時には自分を信じて行動する。
その果てで強烈な演出に殴られ、ナイトシティから帰れなくなるのではと思うくらいの極上のゲーム体験を味わわせてくれた。
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もうひとつ、GOTY選考の大きな理由として、窮地からの復活劇がある。
発売前の大きすぎる期待から一転、2020年12月の発売後、あらわになった多くの不具合などにより、PS4版が一時販売中止。そして起こった返金騒動で簡単には消せない悪評が付いてしまった。
まさにこのゲーム自体が”突如、余命わずか”となったのだ。
しかしそこから執念のバグフィックスが始まる。
スタジオ側の不手際でもあるのはそうだが、それにしてもなぜここまで?と思うほどの継続的なアップデートが続く。
そして2022年9月にスピンオフアニメ「サイバーパンク エッジランナーズ」が公開。
アニメの完成度、同タイミングでの「仮初めの自由」の発表、そして継続的なアップデートのおかげで発売当初よりも遊びやすくなった影響か、プレイヤー数が急増。
発売から2年後、”余命わずか”であったはずのゲームが息を吹き返す。
2023年9月に「仮初めの自由」発売とアップデート2.0(無料)による大幅なゲームシステムの改修。
そして2023年12月、「仮初めの自由」がDLCにも関わらず数々のゲームアワードにノミネート。
また、ファンコミュニティに感謝を示すかのようなアップデート2.1の配信。
そしてこれまでの継続的なアップデートが評価され、The Game Award2023にてソロ専用のオフラインゲームとして初のベスト オンゴーイング賞(開発継続作品賞)を受賞。
発売日に問題の多いPS4版を購入しつつもその面白さに虜になり、ずっと陰ながら応援し続けたゲームが、3年経って再び表舞台に返り咲いているのを見ると感動せずにはいられない。
自分が好きで応援していたゲームがここまでの大復活を遂げた2023年、そのゲームに今年のMy GOTYを捧げずどうする。
開発陣は「応援してくれたファンに感謝」と言ってくれているが、
こちらこそ感謝したい。
諦めずにアップデートをし続けてくれて、
凄まじく面白いDLCを出してくれて、
自信を持って「好き」と言えるゲームにしてくれて、本当にありがとう。
あなたたちの"諦めない"姿勢が奇跡を起こしたんだ。
この3年間の積み重ねが奇跡の結晶となった「サイバーパンク2077:仮初めの自由」。
あなたもぜひ遊んでみてはいかがだろうか。