ぼくは最近結婚した。

妻は情に深く素晴らしい方なのだが、
結婚するにあたり1つ心配事があった。

それは
「結婚したら自分の時間が無くなる問題」
である。

休みの日を映画ゲーム書籍等のコンテンツ摂取に捧げていた僕にとって、
それが出来なくなる事は死に等しい。
だからと言って、せっかく2人で住んでいるのに「今日はこの映画!」「今日はこのゲーム!」と1人で部屋に篭ってるのがよろしくないのは考えずとも分かる。

というかまぁ、普通に
結婚したからには妻との時間も楽しみたい。

相反する欲求を抱えた葛藤の末出た結論は、
妻をこっち側に引きずり込んでしまおう!
というものだった。
「面白いゲームを紹介して妻をゲーマーにしちゃうぞ計画」の始まりである。
(声高々に発表した時、妻は何言ってんだこいつという顔をしていた)

妻にゲーム歴を聞いてみたところ
妻はこれまでの生涯ゲームというものに全く触れたことが無かったらしい。
試しにマリオを触ってもらったところ
「Aでジャンプだよ」と言われてボタンを探している間に、クリボーがゆっくりとマリオを轢いていった。

その時自分は、
妻に楽しんでもらうためには難しいゲームはご法度、と考えた。
難しくて進めなかったら、そりゃ楽しくないに決まってる。

そう思って、いわゆる初心者(子供)向けのゲームをいくつか探してきて見せてみたところ、
「これなら出来そう」という意見と同時に、
「でも、2人で楽しむのだから、あなたがそこまで興味も無い簡単なゲームを無理して一緒にするのは違うのでは?」とも言われた。

うーん確かに。

でも、ゲーム歴がそこそこ長い自分と、全くの初心者の妻が
同じレベルでやれるゲームなんてあるのか……?

悩みながらYoutubeでゲーム紹介を見ていたところに流れてきたのがこの「It takes two」というゲームだった。

コミカルなキャラクタ、
次々と移り変わる華やかなゲーム画面。
それらが妻の琴線に触れたようで、
「これはやってみたいかも」
と、初めて妻から能動的な返事を貰えた。

自分は実は既にこのゲームを知っていて、面白そうだなとも思っていたのだが、あえて妻に提案はしていなかった。
理由は、初心者には難しそうだったから。

「夫婦でプレイ!みたいな空気出してるけど普通に難しい」
「熟練度に差がある2人だと微妙かも」
という意見も散見されていたので、
初めから選択肢から外していた。

でも初めて妻の方から提案してくれたし、
まぁやってみて無理なら止めたらいいか……と思い、結局購入。

プレイしてみたら、やっぱり難易度が高かった。

そりゃあ、普通に普段ゲームしてる人からすればなんて事ないかもしれないけど、
動く床を飛び移るとか、
カメラ動かしながら戦闘とかみたいなのが
普通にガンガン出てくる。
プレイヤーの片方が不慣れなケースも多いことは予測出来ただろうに、何を普通に歯ごたえあるゲーム作ってんねん、と思った。

案の定、妻の操作するキャラクタはひたすら崖に向かって走り、転落死を繰り返していた。

レビューは本当だったなぁと思って、きっとうんざりしているであろう妻の方を見ると……

自分の予想に反して、妻はとっても楽しんでいた。

ただ走って崖から落ちているだけなのに
「もう1回」「もう1回」と、コントローラーを握る手を離さなかった。

コーヒーを淹れながら妻の転落死を眺めること15分、
恐らく30回ほどのリトライ(小休止あり)の末、ついに向こう岸にたどり着いていた。

やった!!!と喜ぶ妻を見て、
自分はゲームの根幹の面白さを思い出した。

自分が初めてコントローラーを握った時。
泣きながら電源を切ってそれでも戻ってきた時。

その原動力は「難しくなかったから」だっただろうか?
そんな訳が無い。
「ゲームが面白かったから」だ。

ボスを倒したかったから
かっこいいアイテムが欲しかったから
世界が平和になるのを見たかったから


自分は勝てない相手に挑み、
難しいパズルに悩んだのだ。

妻に紹介すべきゲームは、
簡単なゲームじゃなくて、面白いゲームだったのだ。

結局妻と自分は、何かに引っかかってはトライアンドエラーを繰り返し、たまに諦めておやつタイムを挟みながら
恐らく通常の三倍ほどの時間をかけてクリアした。

ただただ楽しかった。
10分後には変わるゲーム性、
その一つ一つの完成度。
美しい景色とコミカルなキャラクタ、
2人専用と謳うに相応しい協力性。

そして特に大きかったのは、
リスポーンの速さと潔さ!
何をやらかしてもフワッと消えてちょっと戻るだけの仕様は、
「なにくそもう1回」を容易にしていた。
製作者はこの2人プレイ専用ゲームを作る時
「簡単なゲーム」ではなく「チャレンジしたくなるゲーム」を目指したのだろうか。

トライアンドエラーというゲームの根幹的な面白さを2人で共有させてくれる、これは
「2人プレイ専用の、“面白い”ゲーム」なのだ。

--

このゲームをプレイして以来、僕たちは夕飯後にコーヒーを飲みながら色んなゲームをするようになった。

「面白いゲームを紹介して妻をゲーマーにしちゃうぞ計画」は大成功である。

1人のゲーマーと楽しい夜を生み出してくれたこのゲームが、今年の私のYour GOTYだ。
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